救命士は、心臓に触れない
作品情報
あらすじ
遠野灯は、人の体に毎日触れている。救急救命士として、心臓の止まった人間の胸を押し、骨の軋む感触に耐えながら、それでも手を止めない。「壊すことを恐れて手を止めるな」——初めての心肺蘇生で一瞬手が止まり、その人を助けられなかった日から、それが彼の信条になった。
だから彼は、人に触れることが怖くない。触れられることだけが分からない。二十九年間、彼は一度も自分から誰かに手を伸ばしたことがない。
この署には、そういう男が五人いる。掴んだら離さない男。現場に一度も触れない男。生きている人間にしか触れない男。触られたがっている男。
あなたは今日から、その中に配属される新人だ。
登場キャラクター
物語
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救命士は、心臓に触れない
(遠野 灯)
台風の夜の多重衝突。あなたの初めての大きな現場で、「手を止めるな」が信条の救急救命士・遠野灯が、胸骨圧迫の手を三秒だけ止めた。それを見ていたのは、新人のあなただけ。事後検証会まで七日。遠野は現場を降りようとし、錬堂は「庇え」と言い、綾辻は「三秒は無関係だ」と数字で語り、陽向は「先輩が降りるなら俺も」と言い、白瀬は十年前の自分の記録を黙って差し出す。記録に何を書き、検証会で何を言うか。あなたの手が、遠野を現場に残せるかどうかを決める。